プライマリケアにおける精神障害の診療

精神および行動の障害は、世界の疾病負荷を引き起こす大きな要因となっている。また、精神および行動の障害の治療については大きなギャップがあり、これは中低所得国において特に著しい。これに対し、WHOはひとつの対策として、プライマリケアにおいてとりわけよくみられる精神障害の同定と治療の改善を打ち出している。プライマリケアは、一般的に専門的な精神医療ケアと比較してよりアクセスがよく、受容度も高く、また金銭的な負担も低い。

この目的を達するには、精神障害の同定および分類にプライマリケア従事者が用いることのできるツールの開発が特に重要である。そこで、精神保健に従事する専門家向けの診断ガイドラインと並行して、プライマリケア版の改訂も分類の臨床的有用性向上の目的のもと行われている。WHOのプライマリケア・コンサルテーション・グループによれば、ICD-11のプライマリケア向け精神障害の分類は、約30の診断カテゴリに対する診断ガイドラインが含まれる予定である。これを用いて、プライマリケアの現場で頻発する精神障害を正確に同定することを目指す。また、診断ガイドラインはプライマリケア従事者向け治療ガイドラインとつなげて活用してもらうことを目指す。

抑うつと不安はプライマリケアにおいて最もよく見られる病態であり、また、両者はしばしば同時に生じる。しかし、ICD-10プライマリケア版では、別々の障害として収載されている。プライマリケア従事者の診断を補助するため、プライマリケア・コンサルテーション・グループは、「不安抑うつ」の診断カテゴリを新設することを提唱し、また、それに対応するスクリーニング尺度を提出した。この尺度は、抑うつと不安について、各々たった5つの質問項目から成る。この提案は、プライマリケア関連のフィールドスタディのひとつで取り上げられ、スタディは5か国で行われた(ブラジル、中国、スペイン、メキシコ、パキスタン)。スタディの結果から、不安と抑うつの混在する病態の見立てと、それに対する簡便なスクリーニングツールは、精神医療サービスを求めてプライマリケアを受診する全世界の患者を正確に同定するうえで、臨床的に有用であることが示された。

このフィールドスタディは、科学的エビデンスがプライマリケア用の精神および行動の障害の分類作成にどのように役立っているかを示す一例である。プライマリケアの現場を想定して作成される分類は、一般的な精神障害の早期発見と早期治療に寄与しうる。また、ひいては、患者の体験する多大な苦痛を軽減することにもつながる。医学的に説明のつかない身体症状(身体苦痛症候群)の診断ガイドラインの改訂を評価する別のフィールドスタディも完了し、ICD-11プライマリケア版に収載予定のこれらの診断カテゴリに対するプライマリケア従事者向けの治療ガイドラインも現在進行形で作成中である。治療ガイドラインは、WHO作成のmhGapをはじめ、国際的なエビデンスに基づく診療ガイドラインを元に作成されている。